臨床研究


炎症性筋疾患におけるMRIを用いた筋・筋膜病変の評価法

 当施設において、皮膚筋炎(DM)の早期病変として筋膜炎が存在することをMRIとen bloc biopsyにより組織学的に明らかにしました。そして、筋膜炎はほとんどのDMに認められ、頻度の高い病変であることを示しました。さらに、筋膜付近小血管は筋内小血管と同様に炎症細胞浸潤の好発部位となることを組織学的に証明し、炎症は筋膜から筋内へ進展することを同一患者における経時的なMRI所見によって示しました(Arthritis Rheum. 2010; 62: 3751-9)。以上のことは筋膜組織がDMの早期標的臓器となっていることを示唆しています。

 本研究では、DMと多発性筋炎(PM)のMRIによる所見の特徴を見出し、独自のスコアリングシステムを構築しました。このスコアリングシステムはDM/PM分類に有用であり、DMにおいては感度/特異度が80%/90%であり、2017年にEULAR/ACRから発表された最新の炎症性筋疾患分類基準と比較しても遜色ないものでした(論文投稿中)。また、PM患者では筋膜炎の検出頻度は有意に低く、筋膜炎が検出されるPMは抗合成酵素症候群など筋炎特異抗体陽性症例に多いことが判明しました。現在、当施設では実際に臨床においてこのスコアリングシステムを応用しています。

炎症性筋疾患におけるドプラー超音波を用いた筋・筋膜病変の評価法

 超音波パワードップラー法(PDUS)は、様々なリウマチ性疾患の評価に応用されており、特に関節リウマチにおける滑膜炎の検出には確立された検査法です。PDUSは造影MRIと比較して低侵襲で、MRIのような撮影上の制限がなく、同時に複数の部位の評価が可能です。我々は、PDUSを用い、DMとPMにおいて筋膜炎が検出されるかどうかMRIと比較して検討しました。その結果、炎症性筋疾患患者においてPDUSによる筋膜炎の検出が可能であることを示し、DMでその頻度は有意に高いことが分かりました(Arthritis Rheumatol.  2016;68:2986-2991)。また、筋組織における所見の特徴をも見出し、炎症性筋疾患の鑑別診断に応用しています。

炎症性筋疾患における筋膜および筋組織での網羅的遺伝子解析

 炎症性筋疾患、特にDMでは筋膜組織が早期標的臓器であることに着目し、筋膜組織に発現している血管新生に関与する分子や細胞について検討しました。その結果、DM患者の筋膜においてCD31陽性血管数、筋膜付近の血管周囲に浸潤しているVEGF発現細胞数、TNF-α発現細胞数がPM患者と比較して有意に多く、DM患者においては筋膜の血管新生が亢進していることを示しました(Arthritis Res Ther. 2017;19:272)。本研究では、さらに詳細な発現遺伝子プロファイルを検討するため、DM/PMの筋膜においてどのような経路が活性化し、どのような遺伝子の発現が亢進しているか筋膜と筋組織を分けて次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析を行っています。

リウマチ性疾患における疼痛の研究 

 関節リウマチは滑膜を炎症の主座とする慢性炎症性疾患であり、滑膜の炎症に伴い関節痛が生じます。そして、滑膜炎による痛みは炎症による疼痛、つまりは侵害受容性疼痛が主な病態であると考えられてきました。実際、臨床では炎症をコントロールすることで疼痛がコントロールされる場合がほとんどです。しかし、炎症がコントロールされていても疼痛が持続し、治療が難渋する症例も経験します。

 近年運動器疾患における難治性疼痛の原因は、神経障害性疼痛や中枢性感作などが関連しているといわれています。我々は関節リウマチ患者における難治性疼痛においても同様の原因で生じる可能性があると考えています。そこで関節リウマチ患者において生じる神経障害性疼痛様症状を質問票で解析し、関節症状との関連を検討しております。また、中枢性感作のスクリーニングツールを用いて中枢性感作でみられる症状が関節リウマチ患者においてもみられるのかどうかを検討しています。

関節リウマチにおけるDual Energy CTによる関節炎の評価 (共同研究)

 関節リウマチ(RA)においてエコーやMRIは滑膜炎の検出や疾患活動性評価に有用です。現在、RAの診断と活動性評価においてエコーとMRIが主流ですが、エコーは術者依存性が高く、MRIは検査へのアクセスや検査コストの問題があります。

 CTはMRIと比較して各指骨の多断面的な評価が可能であり、空間分解能が高く、検査へのアクセスが良く、短時間で施行でき、当日検査も可能です。また、MRIより低コストであり、関節炎治療前に必要な胸腹部のスクリーニング(結核感染の既往や悪性腫瘍の精査など)も同時に施行でき臨床的有用性が高いと考えられます。

 近年、2つの異なる管電圧の画像を撮影し、CT値の変化を解析することで、物質の組織組成が判定可能となるDual Energy CT(DECT)が日常臨床に導入されました。DECTの解析方法の一つに物質定量が可能となるThree-material decomposition法があり、組織中の脂肪と軟部組織と造影剤の3つの異なる組成のCT値を識別し、単純CT像とヨード造影剤分布画像(ヨードマップ画像)の作成が可能となっています。ヨードマップ画像の高いコントラスト分解能を用いて、MRIより高い空間分解能で滑膜炎を描出し、定量的に活動性評価を行うことが可能と推測されます。当施設では関節リウマチ患者に対してMRIとDECTを同時に撮影して国際的ガイドラインが推奨する造影MRIにDECTが代替可能な検査方法であるか否かを評価する臨床研究を当院放射線科と共同で行っています。