基礎研究


関節リウマチ(RA)とシトルリン化蛋白

 アミノ酸の翻訳後修飾であるシトルリン化は、peptidylarginine deiminase (PAD)によって蛋白質中のプラス電荷を持つアルギニン残基が中性電荷のシトルリン残基に変換される反応です。抗シトルリン化蛋白抗体(anti-citrullinated protein antibody: ACPA) はPADによってシトルリン化された蛋白に対する自己抗体であり、RAに極めて高い特異性があります。保険診療では抗CCP抗体として測定が認められています。ACPAは、RA発症10年以上前から検出されうることが報告されています。また、ACPA陽性者は5年以内にRAを発症することが多く、ACPAの陽転化はRA発症に関与する重要な現象の一つです。しかしその一方で、ACPA陰性のRA患者においてもPADI4遺伝子のRA感受性ハプロタイプが独立した骨関節破壊の危険因子であることが報告されており、PADのACPA誘導以外の役割もRAの病態形成に関与していると考えられています。シトルリン化は蛋白質の折りたたみ構造の展開、蛋白質分解や分子内相互作用の喪失などに関与することが知られており、この反応により蛋白質の機能が変化することは容易に予想されます。近年、RAの病態に関与するいくつかのケモカインがin vitroでPADによってシトルリン化されること、また、その反応によりケモカイン本来の機能が減弱する可能性が報告されました。しかし、生体内におけるシトルリン化したケモカインの存在や機能についてはまだ十分に知られていません。

 当研究では、シトルリン化されたRAの代表的ケモカインENA-78/CXCL5、 MIP-1α/CCL3、 MCP-1/CCL2を新規に開発したELISAによって検出することを可能としました。そして、それらの濃度は、RA関節液において他のリウマチ性疾患と比し有意に高く、シトルリン化ENA-78/CXCL5についてはCRPや赤沈とも正の相関関係を示しました。ENA-78/CXCL5は本来好中球の遊走因子ですが、シトルリン化ENA-78/CXCL5は、in vitro/in vivoにおいて単球を遊走させました。さらに、シトルリン化ENA-78/CXCL5は、ENA-78/CXCL5のレセプターであるCXCR2のみでなくCXCR1をも介して単球を遊走させることを本研究で示しました(Arthritis Rheumatol.  2014; 66:2716-27)。

 RAにおいて関節滑膜組織にPAD4が高発現していること、また、in vitroでPAD自身もシトルリン化を受けることは既に報告されています。そこで現在はPADの自己シトルリン化がPADの機能をどのように変化させるかin vitroとin vivoの系で検討しています。

関節リウマチにおける神経免疫連関の解明

 関節リウマチの治療は、抗TNFα抗体製剤をはじめとする生物学的製剤の登場によって、飛躍的に進歩しました。しかし、関節炎の治療がうまくいっている場合でも(客観的な疾患活動性が低下しているのにも関わらず)、疼痛や不眠等の訴えが聞かれることが多くあります。関節リウマチ患者が不眠や抑うつ気分を呈することはこれまでも報告されてきました。しかし、これらの症状は現在でも不定愁訴として十分な治療がなされないケースが多く、また決定的な治療がないというのが現状です。当科では、関節リウマチによって中枢神経系の異常が引き起こされることでこれらの症状が生じているのではないかという仮説を立て、研究を進めています。

 我々は過去に関節リウマチにおける血管新生の重要性について研究を行ってきました。その中で最近報告されたProkineticinと呼ばれる血管新生因子が、関節リウマチモデルマウスの病態増悪に関与していることを報告しました。Prokineticinは神経系への作用(サーカディアンリズムや疼痛閾値の調整等)や免疫系への作用(走化性等)が報告されています。我々は現在このProkineticinというタンパク質群に注目し研究を行っています。

 

具体的には以下の手法を用いて研究を進めています。

・関節リウマチモデルマウスを用いた検討

・コンディショナルノックアウトマウスを用いた検討

・マウスの行動解析による検討

・マウスのリンパ球やマクロファージ、樹状細胞などの培養細胞を用いた検討

・関節リウマチ患者さんの末梢血を用いた検討

・関節リウマチ患者さんの関節手術検体を用いた検討